ペップ・グアルディオラは左のセンターバックには左利きの選手を配置したいとよく口にしています。その言葉通り、グアルディオラはエメリック・ラポルトという左利きの選手について「世界最高の左利きのセンターバックだ」とコメントしていました。現在世界中には左利きのセンターバックが溢れています。ビッククラブに必ず1人は在籍しており、以前のように左利きというだけではアドバンテージを得られなくなってきているのが現状です。そんな中で、左利きという武器を全面に押し出しながらなおかつ、センターバックとしてハイレベルなプレーを見せているのがパウ・トーレスです。スペインのビジャレアルで育ち、現在もビジャレアルで主力として活躍しているパウ・トーレスは左利きという特徴はもちろん、その特徴を差し引いても世界トップクラスのセンターバックです。今回は左気センターバックの教科書のようなパウ・トーレスについて紹介していきます。
1997年生まれで現在25歳のパウ・トーレスは東京オリンピック2020でもスペイン代表のセンターバックとしてプレーし、銀メダル獲得に貢献しました。また、ユーロ2020でもスペイン代表としてプレーしており、この時はスペインには右利きのセンターバックもメンバーにいながら、なんと左利きのセンターバックが2人プレーするという珍しいことが起こっていました。これもパウ・トーレスが利き足に関係なくセンターバックとしての能力が高いことを証明する出来事でしょう。
パウ・トーレスのプレーについて解説していくと、まずは彼の守備について。191センチのサイズがありながらスピードもあるため相手FWに対して常にタイトにアタックしていくことができる。インターセプトを狙いに行くプレーが常に最初の選択肢としてあり、できなければコントロールさせて奪う。ファウルで止めたり相手ごとガシャんというのではなく、サッと入れ替わりながら奪う。これができるセンターバックは非常に優秀で、ある意味特殊能力に近い。速さがなければ潰すプレーが入ってしまうし、ボールを奪う技術がなければかわされてしまう。入れ替わりながら奪うことができれば自分がフリーの状態になることができるし、相手を1人交わしているのと同じ状態なので数的優位にもなりやすい。クリーンでクレバーな守備はセンターバックとしてかなり優秀な証拠だろう。
もう一つの特徴としては予測が優れている。これは攻撃面にも通じる部分だが、トーレス自身が攻撃の手段やパターン、方法を自分のイメージの中にたくさん持っていると思われるので、相手の攻撃に対してもどこを狙ってくるかどういった方法でくるかという予測がある。予測があるのでその分相手の攻撃に対しての対応もスピーディで正確だ。守備は基本リアクションになるのだが、彼はそのリアクションを限りなくアクションに近い状態つまり後手ではなく先手で守備を行うことができる。
次は攻撃面。教科書というのはこの攻撃面のことで、左利きの特性を存分に活かしているので参考にしてほしい。
ビルドアップの局面では所属するビジャレアルがピッチ全体を埋めるような方法をとるため、トーレスは攻撃方向に向けて左下の位置からスタートすることがほとんどで、そこからボールを受けるか受けないかでポジションが変動していく。
この位置でボールを受けた際のビルドアップ・プレス回避も間違いがなく、ボールをサイドに流しながら相手のプレスが遅ければ縦パスをつける。縦パスの受け手が見当たらない時は、自らボールを1列前に持ち運ぶ。この時に左利きの特性が出る。右利きの場合だと体の向きと違う方向にパスを出すのが難しいため必然的に内側に運び出すか、さらに縦につけるしかなくなるわけだが、左利きの場合は体が縦を向いたまま右斜め方向あるいは右横にインサイドでのパススピードをともなったボールが出せる。これは守備側にとって非常に厄介で、縦のコースを切らないと直接ゴール前にスルーパスやロングボールを放り込まれるので仕方なく縦方向を消すのだが、トーレスはその瞬間に右斜め前に落ちてくるFWあるいは待機しているMFにスパンとパシを入れる。これによって全体的に左にずれていた相手の守備は一気に揺さぶられて、反対にそれを込みでビルドアップを組んでいる味方はここぞとばかりにスプリントをかけてゴールに迫る。
さらにトーレスはここからさらに奥の逆サイドへのサイドチェンジも行う。相手も縦を消し、横も消し、斜めも消しにくるのだがそうなると今度は奥の選手がどうしてもフリーか1vs1の状況になってしまう。トーレスはそこまでイメージしてビルドアップを行っている。
そうなると相手はプレッシャーに行かざるを得ない訳だが、そこに対してもトーレスは回避術を持っている。それが、切り返し・ターンだ。スピードに乗ってプレスに来る相手をキックフェイントを一つ入れてギリギリまで見てプレスと反対方向に切り返す・あるいはターンして相手を1人外してしまう。実はこれも左利き特有で、理屈はわからないが左利きの切り返しというのは深さがある。マンチェスターシティのマハレズや、フォーデンを見たらわかりやすいが相手のいる方向にターンをしてもとられないのだ。トーレスも同じ能力があり、相手のプレスに引っかかってカウンターを受けるシーンはほとんどない。これらの能力を整理すると、相手のプレスが遅ければ縦パスあるいは持ち出してプレー、最悪サイドチェンジを行う。プレスが速ければ相手のコースを見て持ち運ぶか切り返し・ターンを使って外す。言葉で見たら簡単だが実際は難しいからこそトーレスは評価が高いと言える。
クラブではヨーロッパリーグ制覇も経験し代表にも定着してきている。より成熟してきたパウ・トーレスはどのクラブも欲しがる注目の選手だ。どんなクラブでどんなプレーを見せてくれるのかこれからますます注目してみてもらいたい。
コメント